温熱療法

 39~45℃程度の熱を用いてがんを治療する温熱療法は、ハイパーサーミアと呼ばれています。本邦では1990年代よりがんの種類によらず保険収載され、集学的ながん治療の一環として用いられています。放射線治療や抗がん剤の治療効果を高めることを目的に使用します。

1. 生物学的な根拠

 温熱療法は、39~45℃の加温による蛋白質変性、細胞内代謝の変化などにより、がんの細胞死を誘導します。温度依存性が高く42.5度を超すと効果が急激に高まります。加温により正常組織は血流が急激に増加し冷却されますが、腫瘍組織は、血流増加が乏しく温度上昇しやすいことを利用しています。

 基礎研究により放射線治療の効果が得られにくい状態にあるがん細胞(低酸素、低栄養、細胞周期のS期など)により効果的であることや、39~42℃程度の低めの温度域では、腫瘍内の血流が増加し放射線治療や抗がん剤の効果が改善することが示されています。また、最近の研究では、熱ショックタンパク質を介したがん特異的な免疫賦活効果も確認されています。

2. 加温方法

 本邦で広く普及している加温法は、がんの存在する領域の皮膚表面を2方向からパッド(ボーラス)で挟み込み高周波電流を流して加温します。ボーラス内の液体を還流させ、皮膚表面の熱感や痛みを抑えます。1回の加温時間は40~60分程度で、週 に1~2回、放射線治療を行っている期間中に総5回程度行います。タイミングは、放射線治療の照射を行った直後や、抗がん剤の投与日に行われます。

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当院の最新型加温装置

(Thermotron RF-8, GR Edition™)

一対の大型電極に付着するボーラスで体表面を挟みこみ高周波電流を流し体幹の深部腫瘍を加温します。ボーラス内を冷却液が還流し、体表面の熱感や疼痛を抑制します。

3. 治療効果

 乳がん、頭頸部がんや皮膚のがんなどの体の浅い部分に存在するがんでは、42℃を超すような良好な腫瘍の温度上昇を得られやすいです。温熱療法を放射線治療に追加することで、治療したがんの消失率や制御率が改善することが多くの臨床試験乳がん頭頚部がん悪性黒色腫示されています。さらに近年、加温装置や加温法の改良がなされ、体の深部にある子宮頸がん直腸がんなどで41~42℃程度の温度上昇が可能となり、放射線治療に併用することで局所効果が高まることが臨床試験で示されています。抗がん剤と温熱療法の併用は行われた臨床試験が少ないですが、軟部肉腫において有効性が報告されています。温熱療法の副作用は、加温に伴う熱感、疲労や低温熱傷が起こりえますが、多くは一時的なもので軽度です。温熱療法により放射線治療や抗がん剤の副作用が増加することは、臨床試験の結果も含め通常みられません。 

 温熱療法の問題点は、がんの温度上昇が不十分な場合には効果が得られないことです。十分な加温を行うための精度管理や、良好な温度上昇が可能な患者さんの選別が重要です。日常生活の自立が難しい状況にある方には実施が困難です。当院に導入された新型の温熱療法装置は、高出力での加温と同時に皮膚表面の強力な冷却が可能で、深部のがんに対する良好な温度上昇が期待できます。

 当科では、主に下記のような病態に対して、標準的治療に温熱療法を併用することにより放射線治療の治療効果の改善を目指しています。

 • 子宮頸癌

–III期・IVA期

 • 直腸癌

–術前および局所再発

 • 非小細胞肺癌

–胸壁浸潤型

–≧T2

 • 膵癌

–局所進行期

–化学療法との併用も

 • 前立腺癌

–高~超高リスク群

 • 小数個の再発・転移 (オリゴ転移)

       –縦隔・肺門リンパ節転移

       –傍大動脈・骨盤内リンパ節転移

 • 局所再発乳癌

–放射線治療後の再照射 

 • 頭頸部癌

–局所進行癌 (≧T3, ≧N3)

–放射線抵抗性の組織型・同時化学療法適応不能例

–放射線治療後の再照射

 • 悪性黒色腫の再発・転移病変

–腫瘍径大

 • 骨転移 

       –腎細胞癌

       –脊柱管内進展

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